皆様、こんにちは!
Cellar Door Aoyama シェフ緒方です。
今回は先日開催した、Château Musar 生産者ディナーのお話です。
レバノンのワイン。
普段ワインを飲まれる方でも、なかなか飲む機会は少ないのではないでしょうか。
私自身も今回改めて色々なヴィンテージを飲みましたが、
長期熟成のポテンシャルがあって、とても素晴らしいワインたちでした。
そしてMusarについて色々調べていくと、
単純に「レバノンのワイン」というだけでは終わらないんですよね。
土地のこと、歴史のこと、戦争のこと。
今回の料理は、そんな背景も少し入れながら組み立てました。

■Château Musar
レバノンには、およそ6,000年にもわたるワイン造りの歴史があると言われています。
一方で、古くから政治情勢が安定していた土地ではなく、
何度も戦火にさらされてきた場所でもあります。
そんな状況の中でも、
その土地に根を張り、ワイン造りを続けてきた人たちがいる。
Château Musarも、そのひとつです。
今回料理を考える時に、
ただ「レバノン料理を作ろう」という感じにはしたくありませんでした。
もちろんワインとの相性も大事なんですが、
そのワインがどこで造られて、どんな時間を経て、今ここにあるのか。
そこまで料理に落とし込めたら面白いなと思って、今回のコースを考えています。

■Amuse「入口」
最初は3種類のアミューズ。

香草パン粉のファラフェル
黒無花果とフェタのブリック包み
水蛸のマリネ パニプリ
レバノンや東地中海の食文化をベースにしながら、少しフレンチの要素を入れています。
ファラフェルには香草パン粉。
水蛸はレモン、オリーブオイル、スマック、赤玉ねぎなどでマリネして、パニプリの中へ。
最初からあれこれ考えながら食べてもらうより、
まずは手で取って、気軽に食べてもらう。
今回のディナーへの「入口」です。
■Appetizer「Racine」
今回、一番料理に意味を持たせたのがこの前菜です。

「Racine」
フランス語で「根」。
同時に「ルーツ」という意味もあります。
Château Musar Whiteに使われる
ObaidehとMerwahという古くからレバノンにある土着品種。
これらは、シャルドネ/シャスラやセミヨンのルーツにあたるとも言われています。
葡萄の根。
レバノンという土地のルーツ。
土壌やテロワール。
さらに今回使っている野菜の多くは、川越の契約農家から届いたものです。
川越は、私自身が育った場所でもあります。
なので今回は、レバノンや葡萄のルーツだけではなく、
料理を作っている自分自身のルーツも少し重ねています。
料理は、
Mezze
11種類の一口メゼ

赤茶色のクランブルを土に見立てて、その上に野菜を配置しました。
焼きパプリカと胡桃のムハンマラ、水茄子とキャビア・ド・オーベルジーヌ、葡萄葉で包んだメルゲーズ、紅しぐれ大根、新ごぼう、ラディッシュとラブネなど。
生で食べたり、茹でたり、揚げたり、焼いたり。
土壌を模したクランブルに、根を張るように並べた野菜たち。
一皿を通して、ワインのルーツを辿ります。

(いつもはサワードウとバターを提供するのですが、今回はバターの代わりにフムス。)

(自家製のピタブレッドも添えます。)
■Poisson「続ける」
魚料理に合わせたのは、
Château Musar White 2006。
2006年は、第二次レバノン戦争が起き、国内が戦火にさらされた年です。
当然ワイン造りにも大きな影響が出るような状況だったと思いますが、
それでもChâteau Musarはワイン造りを続けています。
ここから、この料理のテーマを
「続ける」
としました。

小田原から届いた尾長鯛を、まずはヴァプールでシンプルに。
同じ尾長鯛を一夜干しにもして、ブランダードに仕立てました。
フレッシュな魚と、時間を与えた魚。
さらにソースには、尾長鯛のアラから取ったフュメと、
熟成・発酵させて作られる鮎魚醤を使っています。
同じ魚でも、時間のかけ方でまったく違う味になる。
保存したり、発酵させたりすることも、
昔から食文化を続けていくために使われてきた技法です。
20年近い時間を経た2006年のワインと合わせるなら、
料理にも「時間」があってもいいなと思いました。

■Viande「交差」
ここからは、料理に込めるメッセージは少しシンプルにしています。
何より今回は、Château Musarのワインを楽しんでもらう会。
後半は料理のストーリーを前に出しすぎず、
もう少しワインにフォーカスしてもらえるようにしました。
まずは、
岩手県産ホロホロ鶏のブレゼ。

フランス料理のブレゼを土台に、ザクロやレバノンのスパイスを少し。
フランス料理とレバノンの味が一皿の中で「交差」する。
そんなイメージです。
■Viande「火」
最後の肉料理は、
フランス・シストロン産
仔羊のハーブロースト。
テーマはシンプルに「火」。
大きな仔羊の塊をゆっくり火入れして、最後に薪の香りをまとわせています。
葡萄を育てる太陽。
料理に使う火。
ワインを造る人たちの熱量。
まあ、あまり難しく考えすぎず、
最後は美味しい仔羊をしっかり食べてもらおう、という料理です。笑

■Dessert
最後は軽く。
ラブネのアイスクリーム
アーモンドミルクのブランマンジェ
ラブネの酸味を残したアイスクリームに、
アーモンドミルクを主体にした柔らかいブランマンジェ。
ナッツも少し添えています。
デザートワインは合わせず、2〜3口くらいで。
長いコースなので、最後はこのくらいが個人的には好きです。

■最後に
今回料理を考えながら改めて思ったのは、
ワインに料理を合わせるだけが、ペアリングではないのだな。
ということでした。
酸味とか、甘味とか、香りとか。
そういう味の相性だけを考えることももちろん大切です。
でも、そのワインが生まれた土地や歴史、
造り手が過ごしてきた時間まで知ると、
料理の考え方も少し変わります。
もちろん私はレバノン料理の料理人ではありません。
なので、そのまま再現するというよりは、
フランス料理をやってきた自分なりの解釈で料理にしています。
今回の料理を通して、Château Musarというちょっと不思議で、唯一無二のワインの世界を少しでも感じてもらえていたら嬉しいです。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。

