コレクション: test
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エミディオ・ペペの歴史
現在のEmidio Pepeの起点となるのは1964年。32歳のエミディオ・ペペが自らの名を冠したワインを初めて瓶詰したときだ。当時のアブルッツォでは、Montepulciano d’AbruzzoもTrebbianoも日常的な大量消費酒として扱われることが多く、長期熟成という発想はほとんど存在していなかった。そうした時代に彼は、MontepulcianoとTrebbiano Abruzzeseはイタリアの偉大なワインになり得ると確信し、その価値を誰よりも早く信じていた。
周りが時流に乗り垣根仕立てを導入する中、1960年代からペルゴラ仕立てを維持し、果実を日陰に置きながら葉の光合成によってゆっくり成熟を促す栽培法を残した。白は足踏み、赤は手除梗、発酵・熟成にはコンクリートタンクを用い、無濾過で瓶詰めする。こうした徹底した手仕事と時間への信頼は、現在のPepeの根幹そのものだ。
さらに彼の最大の功績は、ワインをすぐに売らず、自社セラーで長期熟成させたことにある。10年後、20年後にも自らのワインを市場へ戻し、アブルッツォのワインが偉大に熟成することを実物で証明した。ペペは複数のバックヴィンテージを毎年小出しにリリースしているため、蔵出しのバックヴィンテージが安定して手に入る稀有なワイナリー。このセラーと多くのバックヴィンテージ、それらの販売方法も、エミディオ・ペペが遺したレガシーである。
現在ワイナリーを率いるのが、エミディオ・ペペの孫であるキアラ・ペペ。彼女は幼少より畑で育ち、祖父エミディオと共に世界中のマーケットを訪れ、ワインの知見を広げた他、ブルゴーニュでワイン造りを修業し2020年、27歳の時にアブルッツォに戻り、ワイナリーで醸造を引き継いだ。気候変動によりワイン造りの環境が激変する現代において、彼女の役割は祖父のワインを気候変動という新しい時代へ翻訳する存在と言える。
彼女が明確にしているのは、絶対に変えてはならないnon-negotiables(譲れない哲学)と、時代に合わせて進化させるべき余白を分けることだ。Pepeの歴史・伝統・倫理観を守りながらも、未来のヴィンテージにおいてPepeらしさをどう維持するか。その問いに対する精密な答えが、現在のPepeの進化を支えている。
■ペペの畑のアイデンティティ:ペルゴラ
カバークロップも畑の生態系において重要な役割を果たす
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Pepeの栽培哲学の中核にあるのが、1960年代から導入してきたペルゴラ仕立てである。
Trebbiano、Montepulcianoともに現在も50%がペルゴラ、50%が通常の垣根仕立てだが、最良のバランスを示す果実は常にペルゴラ由来だという。幹を約2mまで立ち上げ、4方向へ枝を展開。剪定によって葉量と収量を厳密に制御し、1株あたり約9㎡の葉面積を確保する。収量は35〜40hL/haに抑えられる。キアラが強調したのは、成熟は果粒への直射日光ではなく、葉の光合成から師管流(sap flow)を通じて進むという考え方だった。つまり果粒をあえて日陰に置き、蒸散による糖の濃縮を避けながら、樹液を通じてゆっくりと組織として成熟させる。この栽培により、
酸保持
薄い果皮
繊細なタンニン
長い成熟期間
を同時に成立させる。特に果皮は日陰成熟により厚くならず、Montepulcianoでも薄く繊細なタンニンを得ることができる。
またペルゴラ下は温度が低く蒸散が穏やかなため、酸が高く残る。キアラは今後の気候変動対策についても、「いかに影を作るか」が中心思想になると語った。さらに樹の理解には樹冠、フルーツゾーン、地表の3ゾーンという考え方があり、それに対応するように根もまた3層構造を持つ。植密度は1,000本/haの低植密度。ブルゴーニュ的な高密植とは対極で、各樹に十分な空間を与えることで、
表層根 = 栄養
中層根 = ミネラル
深層根 = 水
という多層的な根系を同時発達させる。
深根偏重ではなく、根の複雑性こそがワインの複雑性につながるという思想だ。
■白の造り方 足踏みによるフェノールの抽出
Pepeの白ワイン造りは、極端なまでに手作業を尊重する。使用する機械はポンプと空気圧プレスのみ。Trebbiano、Pecorinoともに全量を45分間足踏み破砕する。この工程の狙いは、短時間で果皮・梗由来のフェノール、密度、ボリュームを抽出し、長期熟成に必要な骨格を形成することにある。現在ではさらに進化し、収穫後に果実を一度冷却。同じ45分の足踏みでも低温下で行うことで、重たいフェノールを抑えつつ、よりnobleで高貴なフェノールだけを抽出する。足踏み容器も木製からステンレスへ変更され、二重底冷却システムを採用。落下する果汁も冷却してから発酵槽へ送られる。発酵は1964年以来使い続ける22hLのやや縦長のコンクリートタンクで自然酵母発酵。デブルバージュは行わず、アルコール発酵からMLF終了後に1回のみ澱引き。その後は細かい澱とともに長期熟成し、無濾過で瓶詰めされる。

発酵は自然発酵でのみ行われる。ワイナリーに住み着く土地付きの酵母は約35種類ほどいることが分かっている。発酵初期から後期にかけて、温度とアルコール度数の変化によって主役の酵母群が次々に入れ替わるため、グラス内で時間とともに香りが変化する現象そのものが、発酵プロセスの再演であるとキアラは語る。彼女はこれをenergy / sense of placeという言葉で表現した。コンクリートを使い続ける理由も
樽 = 微酸化が進みすぎる
ステンレス = 温調など電気的エネルギーが介入する
コンクリート = gravity only
つまり、重力以外のエネルギーを加えず、澱が自然沈降し、ワインが自律的に統合される容器である。フィルターはその統合を壊すため使わない。若いうちにワインのエネルギーを消費させず、20年後の熟成ポテンシャルを守るという考え方だ。
・品種特性
Trebbiano Abruzzese
Trebbiano Abruzzeseは房が疎で風通しがよく、自然酸が高い。
果皮は薄く、アロマよりも質感、長さ、緊張感に個性が表れる。
白い花のニュアンスを持ち、生魚や生野菜に適し、キアラはその酸を**vertical acidity(垂直に伸びる酸)**と表現した。
Pecorino
一方Pecorinoは小房・小粒で厚い果皮を持ち、固形分比率が高い。
クリーミーでオイリーな質感、黄色い花のニュアンスがあり、火入れした魚や野菜との相性がよい。
酸はhorizontal / grounded acidity(横に広がる酸)。
長期熟成能力を見込んで採用されている。
なおサービス温度は白でも15℃前後が理想。冷やしすぎると閉じてしまい、Pepeの白の本質である質感が見えなくなる。またTrebbiano 2004と2023は特に冷涼で酸の質が極めて高く、熟成ポテンシャルが突出していたため、全量リザーヴに回したという話も印象的だった。
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