ナパの歴史的銘醸畑復活のストーリーBella Oaks
ナパの歴史的な銘醸畑 ― Bella Oaks
ナパ・ヴァレーの中心部、ラザフォードAVA西端=ラザフォード・ベンチ。マヤカマス山脈の裾野に抱かれたこの土地は、朝はやわらかな日差し、午後は山の影による適度な遮蔽に恵まれています。土壌は火山性基盤上のローム/沖積系で排水に優れ、骨格と洗練を兼ね備えたカベルネを育みます。
1970年代前半、医師バーニー・ローズと妻ベルはこの地に100%カベルネ・ソーヴィニヨンの畑を植えました。当時はまだ混植が主流でしたから、きわめて先駆的な試みでした。夫妻は自らワインを造らず、長年Heitz Wine Cellarsにブドウを供給します。Heitz は1966年にマーサズ・ヴィンヤード・カベルネをリリースしてナパで初めて「シングル・ヴィンヤード」を確立し、1976年「パリの審判」でもHeitz Martha’s Vineyard 1970が出品されました。カリフォルニアがフランスの格付を打ち破った歴史的舞台に並んだ事実は、当時から Heitz がナパの品質基準として認められていた証左です。Bella Oaks はその Heitz を支えた歴史的供給畑として、ナパの評価を陰で底上げしてきました。
Suzanne Deal Booth による復興
夫妻の没後、畑は量重視の栽培で疲弊していきましたが、2010年、アート史家で文化遺産保護の実践者でもあるスザンヌ・ディール・ブースが取得し、抜本的な再生に着手します。
まず畑全体を完全改植しました。古木を抜き、新しいクローンや台木を導入しながら、畝の再設計によって斜面の水流を制御し、浸食と滞水を防止します。さらに地下に**排水管(フレンチドレーン)**を敷設して根域の過湿を避け、有機/ビオディナミ農法へ転換。カバークロップの導入や調合剤の散布で土壌の生物多様性を取り戻しました。
加えて、気候変動への対応としてミスト噴霧装置を導入しました。真夏のヒートスパイク時に微細な霧を散布し、気化熱で果実帯を冷却して過熟を防ぎ、成熟を安定化させています。
2015年には隣接地(旧 Ferry Ranch=Bella Oaks East)を取得し、すぐに植え付けるのではなく、5年間休閑させて土壌のクオリティを徹底的に回復させました。これは、過去の化学肥料や慣行農法による累積的なダメージを癒し、失われていた土壌生態系の多様性を取り戻すための期間でした。商業化よりも品質を優先するこの決断は、Bella Oaks のクオリティ・ファーストの哲学を象徴しています。2020年に再植樹し、この区画の果実はセカンドワイン Le Génie に用いられています。
ナパの歴史的畑Bella Oaksに集う巨匠たち
Bella Oaks の再生を支えるのは、ワインづくりの三本柱 ― 栽培・醸造・ブレンディング ― それぞれにおいて世界的に名を馳せる巨匠たちです。
David Abreu(デヴィッド・エイブリュー)
ナパを代表する栽培家であり、Abreu Vineyards の創設者としてナパ屈指の畑管理会社を率いています。Screaming Eagle、Harlan Estate、Bryant Family、Colgin といった最高峰のワイナリーの畑を設計・管理してきた実績を持ち、「最高の畑を作る男」と称されています。Bella Oaks においても改植計画と栽培哲学の基盤を築き、その復興に不可欠な役割を果たしています。
Nigel Kinsman(ナイジェル・キンスマン)
オーストラリア出身の実力派醸造家で、名門 Eisele Vineyard(旧 Araujo Estate) と Rudd Estate でヘッドワインメーカーを務めた経歴を持ちます。そこで培った「ナパの力強さ」と「現代的な繊細さ」を融合させる感覚を武器に、現在は Bella Oaks の醸造責任者として共発酵を軸にした一体感あるスタイルを磨き上げています。さらに、自身のワイナリー Kinsman Eades も評論家から高く評価され、次世代を牽引する存在として注目されています。
Michel Rolland(ミシェル・ローラン)
フランス・ポムロール出身の世界的エノローグ/コンサルタントで、Angélus、Pontet-Canet、Ornellaia、Harlan、Bryant など世界各地の名門を含む200以上のワイナリーに助言してきました。「果実の純度とエレガンスの両立」を得意とし、Bella Oaks ではマスターブレンダーとして関与し、味わいの方向性を国際的な視座から補完しています。
収穫から醸造へ ― 精緻なプロセス
収穫はブロック単位ではなく、**「樹ごとに熟度を見極めて旗を立てる」**方式で行います。その日の最良の樹だけが選ばれ、同じ熟度の果実をまとめて摘み取ります。
選果は徹底して三段階に分かれます。
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房単位の目視選果 ― 収穫段階で病果や未熟果の房を弾きます。
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除梗後のベリー選果 ― 粒の大きさや形を確認し、不揃いな果実を取り除きます。
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光学式選果機による精査 ― 色調や果皮状態を基準に、健全果のみを残します。
この三段階で年によっては30〜40%が排除され、最終的に残るのは「キャビアのように粒が揃った、美しいブドウ」です。
発酵は Cabernet Sauvignon, Cabernet Franc, Petit Verdot を比率を変えつつ共発酵します。初期段階から自然に融合させ、後ブレンドでは得られない一体感を実現します。
熟成は樽を控えめに用い、過度な抽出を避けてラザフォード・ベンチ西端らしい赤〜青系果実、精緻なタンニン、セイヴォリーな陰影を静かに表現します。
ヴィンテージの表情
2017年 Bella Oaks
山火事の年、多くのワイナリーが停電や道路封鎖で発酵管理を失いましたが、Bella Oaks は仕込み拠点の立地と非常用発電機によって管理を継続し、例外的に精度の高い仕上がりを実現しました。香りはダークトーンの果実にセイヴォリーやドライハーブ。構成は緻密で静謐で、タンニンは豊富かつ上質です。
2021年 Le Génie
Bella Oaks East の若木主体です。赤〜青系果実、スミレ、ドライハーブが鮮やかに広がり、口中はフレッシュでジューシー。微細でダスティなタンニンが品よく骨格を整えます。この年は干ばつに加えヒートスパイクに見舞われましたが、ミスト噴霧装置で果実温度を下げ成熟を安定化。凝縮感を保ちつつ過熟を避け、若さと熟成ポテンシャルを兼ね備えた仕上がりです。
Bella Oaks は、Heitz にブドウを供給してきた歴史と、完全改植・畝と排水の再設計・有機/ビオディナミ転換・ミストによる気候レジリエンスといった現代的な実践が一本の線でつながっています。樹ごとの収穫、三段選果で「キャビアのようなブドウ」を残し、共発酵で一体感を育む――すべては土地の声を純粋に映すための手段です。
2017年の静謐な力強さと、2021年の瑞々しい明快さは、その信念が澄んだ形でグラスに結実した証だといえます。
Bella Oaks / Le Genie 2021
Bella Oaks 2017
Bella Oaks 2019
Bella Oaks / Le Genie 2022
Bella Oaks 2021
Bella Oaks 1500ml 2017
Bella Oaks 1500ml 2019
