圧巻の風格とポテンシャルを誇るナパ・ヴァレーの雄、インシグニア
Written by Bungo Matsunaga
先日9/13に、「インシグニア」で名を馳せるナパ・ヴァレーの生産者、ジョセフ・フェルプス・ヴィニャーズのオンラインセミナーが開催され、まだワイナリーからリリースされていない、最新2018ヴィンテージを試飲する機会に恵まれました。今回はナパ・ヴァレーのプロプリエタリーワインの元祖、インシグニアの概要と、最新ヴィンテージの情報をお届けします。
ナパ・ヴァレーのポテンシャルを一早く見出した先見の明
創業者のジョセフ・ジョー・フェルプスは、元は建築家でした。1973年にサント・ヘレナの地に600エーカーの土地を購入し、そのうち100エーカーにブドウを植樹しました。当初はカベルネ・ソーヴィニヨンの他、ジンファンデル、リースリングにゲヴェルツトラミナーを植樹し、「ブドウよりも牛の方が多かったよ」とジョーは当時をよく振り返っていたそうです。ブドウは植えてから実をつけるまで幾年か待つ必要があるので、近隣のハイツ・セラーズの設備を借りて、買い付けのブドウからワインを作り始めました。翌年1974年からは自社ワイナリーで醸造を始め、この年はスタッグス・リープ・ディストリクトの買い付けブドウを使用。その中で特に優れたキュヴェがあったため、通常のカベルネ・ソーヴィニヨンとは異なる、「インシグニア」という名前でリリースしました。これはナパで初めて品種の名前以外でリリースされたワイン(プロプリエタリー・ワイン)であり、その後リリースされたオーパス・ワンなど、ワインに固有の名称を付けるナパワインの潮流になります。
今でこそカベルネ・ソーヴィニヨン主体で知られるこのワインですが、翌年1975年のインシグニアはメルロ主体でした。というのも、インシグニアが生まれた時から続くコンセプトは、その年の一番素晴らしいワインにその名を冠することです。ジョーはそれこそカベルネ・ソーヴィニヨンへのこだわりはなく、コンセプトに見合うものであればインシグニアは白ワインでも構わない、とまで考えていたそうです。その翌年1975年にはアイズリー・ヴィンヤードのカベルネ・ソーヴィニヨンへとブレンドの主体が戻り、その後、カベルネをはじめとしたボルドー品種が、この地では高い品質のワインを生み出すということが次第に明らかになり、1977年以降、カベルネ・ソーヴィニヨン主体のスタイルが定着しました。
ナパ・ヴァレー全域をカバーする自社畑
現在のインシグニア最大の強みは、自社畑の所有数とその範囲です。ワイナリー設立以降徐々に畑の購入を進め、北はサント・ヘレナ、南はクームズ・ビルのさらに南まで全部で7つの自社畑を持ちます。ナパ・ヴァレーは、カリフォルニア湾から吹き込む冷涼な風の影響で、南にいくほど冷涼な気候となる土地。これほど広域に畑を自社管理で所有できるということは、毎ヴィンテージ、その時の気候状況に応じてベストなブドウが選択できるということを意味します。そして2004年ヴィンテージからは、インシグニアは自社畑ブドウ100%で造られるようになりました。創始者ジョーから続く品質へのこだわりと、最高のブドウが手に入れられる自社畑。これらが毎年安定して高い評価を受け続けるインシグニアの強みです。
2大ワイン誌で最高評価獲得。伝説的なヴィンテージ2002年
1974年から続くインシグニアで、マイルストーンとも呼べる伝説的なヴィンテージが2002年です。この年は全般的に暑い年でしたが、カリフォルニア湾から吹き込む霧の影響を多分に受け、バランスよくブドウが熟していきました。ロバート・パーカーの言葉を借りれば、Textbook(教科書のように模範的な)な天候。萌芽から収穫まで、理想的な天候が続いたグレートヴィンテージでした。
- ロバート・パーカーのコメント(100点)
「この素晴らしいワインをもっと購入して個人的なコレクションに入れたい。インクのように濃いパープル色、グラファイトやスミレ、ブラックベリーにクレーム・ド・カシス、炭やバーベキューの香りが広がり、フルボディの、幾層にも重なった厚みのある口当たり。ピュアさ、驚くべき果実の凝縮感、長大(約50秒)でヴェルヴェッティな余韻。この驚異的なワインはもう20年以上の熟成ポテンシャルがある(2013年時点)」
- ワイン・スペクテーターのコメント(2005年Wine of the Year)
「リッチで磨かれており、凝縮した複雑さが味わえる魅力的なスタイル。香りはカシス、ブラックベリー、プラム、モカ、樽に由来する杉の香りが重なり合っている。この若いワインはパワフルかつエレガントで、巧みにバランスが保たれており、豊満で長い余韻を残している」
最新2018年ヴィンテージ、トレード向けオンラインセミナー
去る9月13日、世界のトレード向けに、インシグニアの最新ヴィンテージ2018年ヴィンテージのオンラインセミナーがありました。2018年は、前年まで続いた暑いヴィンテージから一転して、冷涼さが際立つヴィンテージとなりました。ブレンドはカベルネ・ソーヴィニヨン87%、プティ・ヴェルド8%、マルベック3%、カベルネ・フラン2%。色合いはインシグニアらしいインクのように濃いパープル。ヴィンテージ情報の通り、確かに黒系果実に赤系果実の混ざりあったような綺麗な第1アロマが感じられます。カリフォルニアワインのバニラの香りに、ボルドーによく感じる杉や鉛筆の芯といった、落ち着きのある複雑な香りも感じ取れ、大胆ながらも繊細な香りのバランスが好印象です。味わいの面では、インシグニアらしいシルキーなタンニンがありますが、例年に比べ酸のバランスが際立っており、背筋がピンと伸びたようなエレガントなフルボディです。セミナー後、抜栓4日後に再度テイスティングしたところ、酸化のニュアンスは全く感じられず、凝縮感がさらに増した他、リコリスやアニスといったスパイシーな香りが開いているのが印象的でした。
例年とは違ったエレガントな特徴を持ちながらも、それらが見事に統合され、複雑さ、バランスに優れており、グラン・ヴァンと呼ぶに相応しい風格・クオリティを持っていました。まだ日本に輸入されるのは先ですが、店頭に並ぶのがとても楽しみなヴィンテージです。
Cellar Door Aoyamaでは、この伝説的ヴィンテージ2002年をはじめ、インシグニアを全14ヴィンテージご用意しています。ぜひ私たちのインシグニアコレクションをご覧ください。