Collection: ドメーヌ・ベルナール・ドゥフェ(シャブリ)訪問 (2025年3月27日)

1. 到着

ワイナリー入り口

早朝、この日最初の訪問先はDomaine Bernard Defaixでした。ワイナリーのすぐ裏にはプルミエ・クリュであるコート・ド・レシェの急峻な斜面が広がっていました。案内を務めてくださったのはHelene Defaixさんで、Cellar Door Aoyamaでも扱いのあるJaeger Defaix (Rully)の当主でもあります。創業者ベルナール・ドゥフェ氏は現在88歳で引退されていますが、今も毎日セラーを見回り、フォークリフトを操って作業をされています。現在は息子のディディエ氏とシルヴァン氏が運営を担い、その息子アドリアン氏が3代目として参画しています。

左:アドリアン 右:エレーヌ


ワイナリーは2007年からビオロジック農法に取り組み、2009年にエコセール認証を取得しました。27ヘクタールの畑にはプティ・シャブリ、シャブリ、1級畑(レ・リス、ヴァイヨン、コート・ド・レシェ)、そしてわずか0.10haのグラン・クリュ・ヴォーデジールが含まれます。

畑づくりの理念は「3分の1ずつ」、つまり若木、中庸、古木をバランスよく組み合わせることで、フレッシュさ・骨格・複雑さを共存させるというものです。土壌は水はけの良いキンメリジャン石灰岩と、粘土を含み保水性に優れるポルトランディアン石灰岩が層をなしており、それぞれがワインの個性に影響を与えます。


2. 畑の見学

まずはワイナリーに隣接するCôte de Léchet 1級畑を見学しました。

Chablis 1er Cru Côte de Léchet


南東向き斜面。最大傾斜38度のプルミエ・クリュ。午前中の陽光を燦々と受けているのが分かりますね。畑に見える白いポツポツが、シャブリの根幹であるKimmeridgian土壌。海底堆積物から成る水はけのよい石灰質土壌です。

Kimmeridgian土壌


シャブリにはもう一つ特徴的な土壌があり、それがPortlandian。茶色が強く丸みを帯びたこちらも石灰質土壌ですが、粘土質が多く、逆に保水性の高さが特徴です。

Portlandian土壌


畝間にはクローバーやフェヌグリーク、オオムギなど複数種のカバークロップが植えられ、根粒菌による窒素固定や地中深くまで伸びる根による土壌構造の改善、冬季の排水性向上に役立てられています。

画窒素固定のためのマメ科のカバークロップ。根瘤が確認できる。


霜対策は、時系列で整備されてきました。初期にはキャンドルやスプリンクラーを導入し、近年では電熱線方式(6列ごと)を追加。スプリンクラーは氷の層を作り凝固熱で芽を守る物理原理を利用し、電熱線は安定した加温効果をもたらします。キャンドルは局所的な防霜に有効ですがコストと労力が大きく、スプリンクラーは大量の水を必要とし、水源確保が課題です。電熱線は導入コストが高い反面、環境負荷が低く再利用可能です。さらに二段階剪定で、上部の芽を霜の犠牲芽として利用し、下部の芽を本収穫用に残すという選定のテクニックで対応もしており、霜害への警戒心の高さがうかがえました。

スプリンクラー用の貯水タンク

近年導入した電熱線。樹高の高さにある黒いケーブルがそれ。

スプリンクラーを使った霜害対策。先に氷漬けにすることで霜から芽が守られるとのこと。

その後、車でVaillons 1級畑へ移動。Vaillonsはシャブリの南西に位置し、複数のリューディから成る広い1級畑で、比較的温暖な日照条件によりふくよかな果実味が得られるのが特徴です。その中でもLes Lysは冷涼な北向き粘土土壌で、果実の熟成がゆっくり進むため酸がしっかりと残り、緊張感のある構造になります。ここは対岸のグラン・クリュを一望できる絶好のロケーションで、地形や日照条件の違いが一目で感じられました。

写真奥の町の手前がLes Lys Premier Cru、その奥がChablis Grand Cru

3. セラーと醸造設備

ワイナリーのタンクを説明をするHenela

セラーでは葡萄受け入れスペースを見学しました。Rullyから運ばれる葡萄は浅く低い密閉コンテナで運び、ベルト搬送で優しく圧搾機へ送られます。白ワインはステンレスタンクと木樽で発酵・熟成し、約1年後にアッサンブラージュ。設備は増強され、2ヴィンテージ同時管理が可能になっています。冷却装置は水循環方式から内部冷却プレート方式に移行し、水使用量と電力消費を削減しています。

4. テイスティング(2023年ヴィンテージ)

テイスティングの様子

その後ワイナリーのテイスティングルームに移り、生産者のワインをテイスティング。中でも印象に残った3つを紹介します。

● Chablis Vieilles Vignes 2023

正式名称はChablis Terroir de Milly Cuvée Vieille Vigne。村名シャブリながら樹齢の高い優良区画(50年)のブドウを使用。熟したレモンや白桃、アカシアの花に濡れた石や塩気のあるミネラルが重なります。しなやかな果実味と古木由来の凝縮感が共存し、フレッシュな酸が全体を引き締めます。奥行きと長い余韻が印象的です。

● Chablis 1er Cru Les Lys 2023

Premier Cru Vaillonsに隣接する北向き斜面。Vaillonsを名乗ることもできるが、先述の通り地理的な特徴の違いから別キュヴェとして販売。白桃やマルメロ、ジャスミンの香りに、シェールや石灰のミネラルが重なります。引き締まった酸が緊張感を与え、上品な果実味が静かに寄り添います。口当たりは直線的で冷涼な北向き斜面の個性が感じられます。

● Chablis 1er Cru Côte de Léchet 2023

正式名称はChablis 1er Cru Terroir de Côte de Léchet Cuvée Vieille Vigne。1955年植樹のワイナリーで最も古い区画でワイナリーのフラッグシップ・キュヴェ。シトラスや黄桃に火打石や海塩のミネラルが混ざります。豊かな酸と果実の厚みが調和し、口中でもミネラルがテクスチュアを造り活力のある味わいです。余韻にはにがりのようなかすかな苦味と塩味が残ります。


訪問を終えて

シャブリ初訪問でしたが、ドメーヌ・ベルナール・ドゥフェが歴史ある家族のレガシーを守りながらも気候変動による時代の動きに敏感に対応しているのがとても印象的でした。環境の変化に対する様々な試みも、この地で次の世代も変わらずワインを造り続けるための実践。土地に根差したワイナリーであることがとても実感できる訪問でした。