2021年 8月 26日
偉大な生産者のシャブリを比較テイスティングしてみた
Written by 松永文吾
8月も終わりを迎えますが、東京はまだまだ暑い日々が続いています。本日はフランス白ワインの定番、シャブリの生産者、「ドメーヌ・ラロッシュ」にフォーカスし、シャブリのテロワールを探っていきたいと思います。
シャブリ・プルミエクリュの希少性
シャブリはブルゴーニュ最北部のワイン生産地として知られておりますが、名だたるワインが造られるコート・ドールからは100kmほど北西に離れた産地です。ブドウ畑の面積は5,589haに上り、生産量はブルゴーニュ全体の18%を占めます。生産の6割以上が海外で輸出され、国際市場でも人気の銘柄です。輸出先上位5か国を見ると、英国、アメリカに次いで日本は第3位を占めており、アジアではNo.1、フランスも含めると世界4番目の大消費国です。シャブリには下から「プティ・シャブリ」「シャブリ」「シャブリ・プルミエ・クリュ」「シャブリ・グラン・クリュ」の4つの階級がありますが、生産の大半は「シャブリ」が占め、プルミエ・クリュは14%、最高峰のグラン・クリュは僅か1%という希少性の高いワインです。
古い修道院の地
ドメーヌ・ラロッシュは90haもの畑を所有する大規模の生産者。グラン・クリュ3つ、プルミエ・クリュも10リリースしており、幅広いレパートリーに、クラフトマンシップ溢れるワインを作り出しています。この地には19世紀前半に建てられた古い修道院があり、サン・マルタン・ド・トゥール(聖マルティヌス)が道端の乞食に馬上から自らのマントを剣で2つに割き着せてあげたという逸話が有名で、彼らのフラッグシップのシャブリには、このサン・マルタンの名を冠しているものもあります。
二つのプルミエ・クリュを比較テイスティングしてみる
シャブリのワインといえば、やはりグラン・クリュの畑に注目が集まりがちですが、プルミエ・クリュにも負けないほどの魅力があります。その一つが多様性。7つのグラン・クリュがスラン川の右岸、好立地の一か所に固まっているのに比べて、40ものプルミエ・クリュが川の両岸に広がっています。プルミエ・クリュの個性は大きく右岸、左岸に分けられ、その中でも地形が生み出す風の流れ、畑の傾斜や土壌によって多様なスタイルが生み出されます。ドメーヌ・ラロッシュは10のプルミエ・クリュに畑を所有しており、それぞれの土地の個性をシャルドネという品種を通して表現しています。
今回、対極ともいえる2つのプルミエ・クリュ、Vaudevey と Fourchaumeを比較してみました。
Fourchaume
フルショームの中でも、北部の「ロム・モール」、南部の「ヴォピュラン」と呼ばれる区画を所有しています。北部は西向き、南部は南向きの斜面で、力強いワインが生まれるスラン川右岸の中でも最もリッチなワインが生み出されるプルミエ・クリュです。
Vaudevey
南向きが多い右岸に対して、東向きで、日照が穏やかでゆっくりと成熟するスラン川左岸のプルミエ・クリュ。谷間に吹く風も冷涼なミクロ・クリマを生み出します。Vaudeveyは、ラロッシュのプルミエ・クリュの中で毎年最後に収穫されるほど、成熟がゆっくりと進み、涼しいミクロ・クリマを持つプルミエ・クリュです。
日照に恵まれた右岸と、冷涼な左岸のプルミエ・クリュ。味わいにどれほどの差が現れるのか検証しました。
どちらも蜜リンゴ、貝殻のようなミネラルに蜂蜜のような熟成香が微かに感じられ、この点は共通しています。ただし、Fourchaumeの方が香りの強さ、存在感が感じられる一方、Vaudeveyの方がミネラル香が爽やかに感じられます。味わいはFourchaumeでは果実とカスタードのような香りが口中を満たし、横に広がるような豊かなアタック、ただし酸は余韻までしなやかに伸びています。味わい全体を通してスケールの大きさを感じます。一方、Vaudevayは酸がより存在感を増し、塩味を感じるミネラルとともに洗練された美しいボディを作り、余韻をタイトに引き締めています。
グラスに注がれたまま時間を置くと、Fourchaumeはよりブリオッシュ、ジンジャーブレッドのような香りが開きより大胆でリッチになってくるのに対し、Vaudeveyはミネラル、果実のフレッシュな香りが増す他、バターのようなふくよかさもうっすら出てきて、どんどん複雑味が出てきます。 総括すると、酸の量と質には2つの間に大差はなく、どちらも余韻にまでながく伸びていく優美な酸でした。しかし、果実の成熟度合など酸以外の要素で違いがあるため、Fourchaume=フルボディ、Vaudevey=ミディアムボディとテロワールの違いが感じられました。また、香りの種類、豊かさにもそれぞれのワインの個性が感じられるほか、グラスの中で開いてくる香りも、Fourchaumeが力強さを増すのに比べ、Vaudeveyは時間をかけて徐々に複雑さが増してくる印象を受け、アロマの点でもはっきりと違いが感じられました。
ペアリングを考える際も、どちらも広く料理と合わせられますが、Fourchaumeは熱を入れた魚料理や白身のお肉に、Vaudeveyは生魚などを合わせた冷菜とより相性がよさそうです。
「究極のグランクリュ」ラ・レゼルヴ・ド・ロベディエンス
先にも述べた通り、ドメーヌ・ラロッシュは「ブーグロ」、「レ・クロ」と「ブランショ」という3つのグラン・クリュを所有しています。その中でもラロッシュが持つブランショの畑は2haと、このグラン・クリュの最大所有者であり、この畑がドメーヌ・ラロッシュの最も重要視するグラン・クリュで、このワインにのみ、通常のグラン・クリュの他、「ラ・レゼルヴ・ド・ロベディエンス」と冠する最上級キュヴェが存在します。これは、ブランショの小区画ごとに醸造した約30のワインをチームでテイスティングし、グラン・クリュの中でもさらに卓越したクオリティのものを厳選してできるワイン。このテイスティングはワイナリーのセラーの中で行われ、さらにワインメーカーだけでなく、ゲストテイスターを招き、外部の意見も取り入れた上で、より洗練されたクオリティを目指します。テイスターはもちろんソムリエやワイン評論家など一流でワインメーカーとは異なった視点を提供してくれる存在で、その中には世界最優秀ソムリエの故ジェラール・バッセ氏が招かれたこともあります。
トライアングル・メソッドによる緻密な評価
テイスティングに当たってのワインの評価は、「トライアングル・メソッド」と彼らが呼んでいる方法で行われます。Acidity, Aroma, Structureという3つの側面からワインを評価し、これらの要素を減点方式で、欠けているものほど三角の外側にボトルを置いていきます。味わいの中でも酸が単独で指標に入っていることからも、シャブリに相応しい酸の質にこだわっていることが伝わってきます。そして最後に三角形の中心に残ったワインが、理想的なバランスのワインとして最上級キュヴェに用いられます。
こうして選び抜かれる「ブランショ・ラ・レゼルヴ・ド・ロベディエンス」はまさに人の研ぎ澄まされた感性と偉大なテロワールを掛け合わせた究極のシャブリ。栽培・醸造マネージャーのグレゴリー・ヴィエノワ氏は“A true expression of a refined Chablis Grand Cru” (洗練されたシャブリ・グラン・クリュの真正な表現)とこのワインを呼んでいます。
今回、これらのプルミエ・クリュとレゼルヴ・ド・ラ・ロベディエンスをお楽しみいただけるお得なセットをご用意いたしました。シャブリの極限まで洗練されたクオリティとその多様性をお楽しみくださいませ。
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