今週の新着ワインは、今ワイン業界で今最も注目されているプロジェクトの一つといってもよいであろう、ベラ・オークスが入ってきました。ナパ・ヴァレーのラザフォードAVAの単一畑、カベルネ主体の赤ワインですが、畑、歴史、人物etc.どれをとってもトピックが傑出していて、どれから話せばよいか分からないくらいのバックグラウンドを持っています。

ベラ・オークス・ヴィンヤードの歴史

ベラ・オークス・ヴィンヤードはナパ・ヴァレーのラザフォードAVAに位置する畑。1968年にバーニー&ベルローズ夫妻が購入し、夫妻と懇意にしていたハイツ・ワイン・セラーズのジョー・ハイツの助言により、1973年カベルネ・ソーヴィニヨンが植樹されました。当時のナパ・ヴァレーは一つの畑に複数品種を植えることが一般的だったため、ナパにおける最初の単一品種の畑として知られています。夫妻がベラ・オークス・ヴィンヤードで育てたブドウは、ハイツ・ワイン・セラーズが買い取り、2008年までCabernet Sauvignon Bella Oaks Vineyardとして瓶詰めされリリースされていました。

ハイツ・ワイン・セラーズ 「パリの審判」の主役の一人

ベラ・オークスを永きにわたりボトリングしてきたハイツ・ワイン・セラーズは、カルフォルニアワインがボルドーワインを打ち負かした1976年の「パリの審判」において第3位につけたワイナリーとしてあまりにも有名です。このベラ・オークスの1977年は、ジャンシス・ロビンソンによって19点/20点の評価を得、国際的な認知度は一気に加速しました。以降ハイツの代表的なワインとして知られています。

 

2010年から新所有者による新たなプロジェクト

2010年新たにこの畑の所有者となったのが、スザンヌ・ディール・ブース。美術史を修士まで専攻したワイン業界では異色の経歴の持ち主です。美術に関する造詣が深く、理解者でもある彼女は、2004年から2008年までカリフォルニア文化歴史基金の理事会の知事任命を務めるなど数々のキャリアをこなし、現在は教育、芸術、文化的および歴史的保存に焦点を当てた芸術擁護者として、芸術の価値を世に広める活動をしています。この歴史的な畑を手にした後2015年までは、ブドウをスタッグリン・ファミリー・ヴィンヤードに供給していました。その後この歴史的畑の保全を志し、この畑の名前を冠した新たなワインのプロジェクトが本格始動します。ワイナリーの敷地内には、スザンヌのアートコレクションが所々にみられ、その中には世界的アーティスト、草間彌生の作品「Where the Lights in My Heart Go」も飾られています。敷地内のオリーブの樹が植わる空間には、「ラビリンス」と呼んでいる、ワインのロゴマークの基になったアートが設置されています。

 

 

 

ワイン界のスターが揃ったドリームプロジェクト

このワインが今注目されている理由は、ナパの歴史をつくった畑である、ということだけではありません。栽培、醸造、ブレンディングそれぞれに現代最高峰の3人のスタープレイヤーが集結しています。

 

ヴィンヤードマネージャー:デイヴィッド・エイブリュー

ナパ・ヴァレーのブドウ栽培家の3代目にあたるデイヴィッド・エイブリューは、若いうちからボルドーへワイン醸造を学びに渡り、ボルドーの苗木や栽培の技術を以てカリフォルニアに帰還しました。複数の畑のワインをブレンドすることが主流のナパワインにおいて、カベルネ・ソーヴィニヨンの単一畑にこだわり、畑名を冠したテロワール重視のカベルネを造ることで有名です。2022年現在ワイン・アドヴォケイト誌で100点を10回、98-100点などの見込みも含めると16回の100点を獲得するナパ最高峰のブドウ栽培家です。イングルヌックやスクリーミングイーグルといった名生産者のブドウ栽培も歴任しており、ナパの名のあるワインのバックグラウンドを調べると、度々彼の名が出てきます。

2012年よりベラ・オークスの畑の改植にエイブリューは取り掛かりました。ブドウの列の向きや間隔、排水を調整し、カベルネ・ソーヴィニヨンだけの畑にプティ・ヴェルドとカベルネ・フランが植えられ、この歴史的な畑に新たな息吹が吹き込まれています。現在畑は2ブロックに分けられ、今回の2018年は「ブロック2」と名付けられたブロックのみが用いられています。新たに10エーカーの植樹も行う予定で、今後のヴィンテージでは「ブロック1」と追加の区画のブドウも順次用いられるので、目が離せません。ビオディナミ栽培にこだわるエイブリューは、オーガニック認証であるCCOFを取得。現在畑はビオディナミで栽培されています。

Abreuのワインはこちら

 

ワインメーカー:ナイジェル・キンズマン

 

2017年よりベラ・オークスに参画したワインメーカー。イタリア、オーストラリア、カリフォルニアと各国でワインメーカーを務め、ワイナリーの品質向上に寄与した実績と経験を持ち、アロウホ・エステートなどの著名ワイナリーでもワインメーカーを務めたビッグネームです。後述するミッシェル・ロランとも働いた経験があります。

醸造のスタイルはミニマリスト。できるだけ自分の痕跡を残さない、という心掛けでブドウや畑の表現を忠実に再現することを心掛けています。

また、「コーファーメンテーション」と呼ばれる手法でも知られています。ブドウの収穫タイミングを品種や区画で区切らず、畑に植わる3つの品種の一房一房ブドウを確認し、適熟のものを収穫し醸造。結果的に複数のブドウ品種が混じった状態で混醸されます。

 

"桃の木があったとして、一度にすべての桃を収穫することはないでしょう。あるものは他のものより先に熟す。そして、それらの異なる品種の収穫から生まれる複雑さ、そして共同発酵から生まれる統合が、結果的にワインに層を成すような複雑さをもたらすのです" ーNigel Kinsmanー

 

 

マスターブレンダー:ミッシェル・ロラン

 

この名をご存じの読者も多いはずです。ワインコンサルタントという職業の先駆けとなった人物。世界各国を年中飛び回りコンサルタントする姿から「フライングワインメーカー」と呼ばれ、指導したワイナリーの評価は軒並み好評価を獲得。今や世界的なワインコンサルタントです。コンサルタントしたワイナリーを一部挙げると

Dalla Valle Vineyards, Oakville
Harlan Estate, Oakville
Bryant Estate, St. Helena
Angélus, St. Emilion
Ausone, St. Emilion
Giscours, Margaux
Kirwan, Margaux
Lascombe, Margaux
Pape Clémant, Pessac Leognan
Smith Haut Lafitte, Pessac Leognan
Rouget, Pomerol
等、ここでは挙げきれません。

 

Bella Oaks 2018

 

畑はラザフォードの水はけのよい砂利質ローム土壌。ブロック2にはカベルネ・ソーヴィニヨンのクローン6に、エイブリューの畑に由来するマドローナクローン等が植わっています。またカベルネ・フラン(ポムロールのシャトー・ビュー・セルタンに由来するVCCクローン)とプティ・ヴェルドが少しだけ植えてあります。
2018年はカベルネ・ソーヴィニヨン80%、プティ・ヴェルド12%にカベルネ・フランが8%。新樽率は82%、22ヵ月もの長期熟成を経てリリースされます。




ベラ・オークス 2018
60,500円 (税込)
※マグナムサイズはこちら


2016年、2017年は生産者が求めるクオリティが得られなかった為生産をスキップ。3年目にしてついに2018年がファーストヴィンテージとしてデビューしました。リリース間もなくワイン・アドヴォケイトで98点という高評価を獲得し、注目を集めています。ピュアなチェリーとカシスの香りが花の微香と調和し、ベーキングスパイスや焼き立てのペイストリーの香りが、香りに更なる深みを与えます。味わいはフレッシュかつデリケート。ブルーベリーやブラックチェリーのアロマに、ガリーグなどのドライハーブがアクセントとなります。ラザフォードらしい、ココアのような滑らかなテクスチュアが口中を満たし、長くシームレスに続くフィニッシュにはリコリスやベイリーフの爽やかさを感じます。 このワインについてワイン評論家のアントニオ・ガッローニはこう評しています。

“It shows just how refined Napa Valley can be. In a word: unforgettable.”
「このワインはまさに、ナパ・ヴァレーがどこまで洗練されうるかを示している。シンプルに言うと”忘れがたい”ワインだ」―アントニオ・ガッローニ ワイン評論家―

ナパ・ヴァレーの偉大なレガシーから紡がれる新たな伝説がこのベラ・オークスです。ぜひ ファースト・ヴィンテージの2018年をお試しください。