ヴィンテージの評価について

written by Bungo Matsunaga

ワインが他の飲料と異なる側面の一つに「ヴィンテージ」があります。ウイスキーのように「何年物」つまり熟成年数があるものはありますが、生産された年が付記され、かつそれがワインの品質や個性に大きく影響を与える、というのは他の飲料には見かけない要素です。ヴィンテージはよく「良いor悪い」「グレートヴィンテージorオフヴィンテージ」など良いか悪いかのように2分されますが、それぞれのヴィンテージの中には、生産者が自然と向き合う中で生まれるドラマがあり、単純に良いor悪いでは言い切れないところもあります。また、ブドウの何が「良いor悪い」のかもヴィンテージごとに異なりますし、本当に熟成ポテンシャルのあるワインは若いうちには美味しくありません。この記事では、ヴィンテージはどのように評価されるのか、そして目の前にあるワインは今飲んで美味しいのか、これを判断するのに役立つ知識をご紹介します。


理想の「良いブドウ」とは
そもそも良いヴィンテージとは何でしょうか。飲んで美味しいワイン、というのはもちろんですが、主に「質」と「量」2つの側面があると考えられるでしょう。この2つが両立したヴィンテージは間違いなくグレートヴィンテージと呼ばれます。しかし、量は少ないけども質は担保できた年やその逆。また、質についても賛否が分かれる場合(成熟度は極端に高いが酸が減少してしまった2003年など)があります。

春先…ブドウの量を決める最初の試練
冬が終わりブドウの芽が芽吹くころは、収穫期以外で最も神経質になる時期です。この時期一番恐れるものは遅霜です。ブドウの芽は手でポロポロ取れてしまうほど脆く、寒さにも強くはありません。そしてこの芽が何かしらの理由で死んでしまうと、次の新芽が出なければその年のブドウは作られません。天候が不安定な春先、早い時期に温暖な気候が続き新芽が出て、その後夜が氷点下まで気温が落ち込むと、新芽が凍って畑のブドウが全滅してしまう恐れがあります。春先の霜はその年の生産量に直結する大事です。あまりにも早い時期に芽が出てしまうとそれだけ長く遅霜のリスクに晒されるので、生産者はこの時期できるだけ春の訪れが遅くなるように祈ります。また、いよいよ霜が降りてきそうだという予報が出ると、そこらじゅうの畑で燃料を燃やしたり、ヘリコプターを飛ばしたり(上に逃げた暖かい空気をプロペラで吹き降ろして、気温が氷点下に行くことを防ぎます)、あの手この手で霜害を防ぎます。

夏…量にかかわる第二の試練
5月ごろからブドウの開花が始まります。この時期にブドウは受粉し、秋に向けて実を付ける準備を本格的に始めます。この時に避けたいのが湿った天気が続くこと。花粉が飛ばず、受粉ができないブドウが出てくる恐れがあり、そうしたブドウはもちろん実をつけることはありません。無事に受粉したのち、ブドウは実をつけ始め、だんだんと実が大きくなっていきますが、黒ブドウについてはぶどうが色づくヴェレゾンが始まります。引き続き温暖な気候が続くことが望ましいですが、適度な雨が降ることで、干ばつによる水分ストレスを避けられるのが理想です。

秋…ブドウの質を決める最重要な時期
秋の時期はブドウの質を決める最も重要な時期です。どれくらい長く収穫を待てるか、そしてどのタイミングで収穫をするのか、ワインメーカーの根気と決断力が求められる、一年で最も重要で忙しい時期。この時期の最大の懸念は雨。そして最悪なのは雹です。食用ブドウにとって重要なのが、水分が多く瑞々しいことですが、ワイン用ブドウは食用ブドウよりもはるかに糖度が高く、水分が少なく凝縮しています。水分が過剰だと、色も印象も薄い質の低いワインができてしまうため、収穫を控えたこの時期は、雨が降ることなく昼夜の気温差が大きい安定した気候が理想的です。そして一番避けたいのが表による被害。実ったブドウの実を傷つけて、破裂したブドウはワインに使うことはできません。生産者は畑のブドウの熟度を常にチェックし、天気予報を見ながら最適な収穫の時期を決断します。

2017年は外れ年?
このようにヴィンテージの中では、様々な良い要素、悪い要素があるのですが、大まかに質と量にかかわるものに分かれます。つまり、いわゆる「外れ年」と呼ばれるヴィンテージでも、その内容は春先の霜などで収量は落ちたが、秋には天候に恵まれ良い質のワインができた、などの年も含まれるのです。
2017年のボルドーは外れ年、と呼ばれることがあります。これは
・春先にこの地域を襲った霜の印象が強い
・収穫期に雨が降ったこと
の2つが挙げられるのですが、これもその情報を鵜吞みにしてはいけません。左岸においては良い条件で収穫できたアペラシオンもあります。春先、霜は確かに発生したのですが、ポイヤック、サン・ジュリアン、サン・テステフなどジロンド川沿いの格付けシャトーはじめとしたトップシャトーにおいては、川沿いの保温効果と恵まれた畑の立地(標高の高い個所では温度が下がりにくい)により、ほぼ霜の害は受けませんでした。
また、9月に降った雨も、9月の前半に降った雨であり、その後収穫するまでは晴れた日が続き、ブドウは程よく凝縮した状態で収穫できたヴィンテージです。実際筆者がシャトー・ムートン・ロスチャイルドを2018年6月に訪れた際、瓶詰めされたばかりのムートン・ロスチャイルド、クレール・ミロン、ダルマイヤックをテイスティングしたのですが、凝縮感に富んだ素晴らしいクオリティでした。その後日本に輸入されたワインもテイスティングし、2017年は素晴らしい年だということが確信に変わった経験があります。最初に述べたように、ワインは、生産者が様々な出来事と向き合い、選択を繰り返して造られます。そのすべてのドラマが1本のボトルに詰まっているので、単に良いor悪いで決めてしまうのは尚早な判断です。全てが順調に進むドラマよりも、紆余曲折を経てラストを迎えるドラマの方が、観る者の心を揺さぶるはずです。ワインを楽しむときは、ヴィンテージに隠されたドラマを知った上で飲むと、ワインがさらに楽しくなります。

Cellar Door Aoyamaでは週末にテーマを決めたテイスティングを提供しています。11/6-7の週末テイスティングはボルドー2015年のワインです。
ご予約はこちらから。